東京高等裁判所 昭和32年(ラ)317号 決定 1958年2月11日
事実
抗告人は住宅金融公庫から金五十六万円を借り受けていたが、約定の割賦償還金及び利息の支払を怠つたので同金庫から抵当不動産につき競売の申立をされた。しかし抗告人は事業の再建途上にあつたので、昭和三十一年の末に債権者と話し合つた結果、昭和三十二年六月末まで延期して貰い、その後に毎月一万円前後の支払をすることとし、競売期日の昭和三十二年一月十九日にも、同年五月十三日にも、何れもその前に競売延期の申請書が出されていたのである。しかるに競売裁判所は、期日になるや全く独断的に競売を実施し、同年五月十四日には本件競落許可決定が言い渡された。
抗告人は、本件競売申立人の住宅金融公庫と話し合いを遂げ、今競売の競落の前まで月々約束の金員を支払つて来ており、昭和三十二年六月末までには月賦弁済金の延滞分が完済され、競売申立を取り下げて貰えるところであつたのに、競売裁判所が前記のように独断的に競売を実施し、本件競落許可決定を言い渡したのは違法であり、従つて原決定は取り消されるべきものであると主張した。
理由
不動産競売事件において競売期日が定められたときは、右期日と公告との間に法定の期間を存しなかつたとか、その期日が利害関係人に通知されなかつたというように特に、右期日を開くことを違法ならしめる事由がない限り、これを変更するかどうかは裁判所の職権で決するところであつて、たとい債務者や物件所有者が競売申立人の同意を得て右期日の延期申請をしたとしても、裁判所がこれに拘束されるべき何らの法律上の根拠がない。のみならず、本件競売記録によれば、右競売申立については、島田英二ほか二名から更に競売の申立がされ、その申立書が本件記録に添附されていることが明らかであるから、前の申立が取り下げられた場合であつても、後の申立について競売開始決定を受けた効力を生ずるのであり、後の申立人の意向をかえりみずに、一度定めた競売期日を延期することは、必ずしも妥当な措置であるともいい得ない。そのことは、競売実施の結果、後の申立人に売得金の配当がなされることが予測されると否とによつて差異はないのである。
してみると、原決定には何ら違法の点はなく、本件抗告は理由がないとしてこれを棄却した。